2012年05月28日

大佐


 帰宅したゲイス・Sが違和を感じたのは、家の門を見た瞬間だった。
 父親の出入り以外、しめられているはずの門は開け放たれている。門をくぐり中に入ると、異変が生じているのは明らかだ。
 ゲイスが丹精を込めて育てた前庭の花は、嵐でも来たかのように荒らされている。しかし、今日は晴天、この花を荒らしたのは人のように思えた。
「父さん」
 家のドアも、ロックされてなかったようであっさりと開いた。
 玄関では父が倒れていた。大きな外傷はない。
「父さん」
 助け起こすと、父は目を開けた。しかし、その目が何もとらえてないように思える。
「父さん」
 父の体が力なく崩れ、その懐からいくつもの瓶詰めが転がった。
「父さん、父さん」

 父は衰弱していた。
 長年病で伏していたのかと医者に尋ねられたが、そんなことはなかった。母が療養の為に、郊外で暮らすようになってから、街で親子二人の暮らしではあったが、習慣故か、しっかりとしたものだった。
 しかし、今父は衰弱し、目覚める事は無かった。
 何か恨みを受けるような事があったのかと尋ねられたが、代々教師の家柄で父親もまた教鞭をとっている。
 ゲイスもまた疲れを感じながら、自宅に戻る事にした。
 慌てて出たせいで家の門は開け放たれたままだ。
 それはいい。家の中には明かりがついていた。いつも家の中を照らすランタンの暖かい光ではなく、青白いどこか冷たく感じる光だ。
 誰か居るのだ。
 父をこのようにした犯人だ。そう直感したゲイスは、何か武器になるものを探したが、目についたのは、庭仕事用のシャベルくらいだ。それでも、素手よりは心強い。
 シャベルを手に入り込む。
 部屋の中は昼間父が倒れた時と変わらない。それを除けば変わらない。
 ゲイスはゆっくりと中に向かい歩んだ。耳を澄まし、目をこらす。しかし、闇の中、何の気配もない。
「いるのは分かっている。父さんをあんなにした奴なら出てこい」
 答えるものはない。ただ、青白い光が灯った。
 光を前にしているせいで姿は見えないが、随分小柄なように思えた。
「博士の容態はいかがだい」
 若い女、少女といってもいい声だった。
「盗っ人猛々しいな」
「まあ、空き巣なのは否定しない。勝手に留守の間に上がり込んで物取りをする始末だ」
「お前何者だ?」
「答えてもいいが、その前に教えて欲しい事がある。博士は瓶を持っていなかったかな」
 昼間拾った瓶が思い出された。
「知らない」
「間というのは、雄弁なものでね。君は少しも考えるそぶりをしなかった。瓶といっても沢山ある。色や、形、大きさ、中身。しかし、君は悩む事もなかった。君は瓶の所在を知っているということだ。どこにある?」
 ゲイスは奥歯を嚼んだ。
 どちらにせよ取引の材料はこちらにある。
「どうして気にしてるんだ?」
「大切なものだからね。君はあまり人を誘導するのは得意じゃ無いね」
「どっちにしたって、お前の欲しい物を持っているのはこっちだ」
「聞き出すにはいくらでも手があるんだが、事を荒立てたくないんだ」
 少女はしばらく腕を組んで、「サトリというのを知っているかい」
 ゲイスは答え無かった。
 しかし、脳裏にはその逸話をしっかり思い出していた。
「正解だよ。自分はアヤカシの類いでね、君が持っているのは分かった。あれを渡して欲しい。そうしなければ危険な目に遭うよ」
「父をああしておいてその言いぐさか」
 ゲイスは床を蹴った。大きな部屋とはいえ、簡単に捕まえられる距離のはずだった。だが、少女はそこが社交の場のように優雅に交わして、窓枠に飛び乗る。
 銃声が響いた。少女の体が
 それはゲイスの背後から聞こえた。
 紳士らしい格好をした男だが、その手に構えられた自動式の拳銃は異質だった。
 ゲイスの脇を抜け、男は窓に近づいた。男はゲイスを一瞥すると、窓から外に飛び出した。ゲイスも男を追い外に出る。少女の姿は無い。
posted by 作者 at 01:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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