2012年11月26日

小夜啼鳥

前編 小夜啼鳥の夜
  雲が途切れ、月が街を照らし出す。
  人々は驚いて、声を上げた。
  現れたのは白銀の装いに身に包んだ戦士たちだった。
  戦士たちは剣を抜いた。満月の光を受けて、刃がより鋭い輝きを増す。
  叫びを上げながら戦士たちは人々に切りかかった。
  切りかかる仲間たちの中、ジャック・アーヴィングの前には子供が立っていた。それが初めて殺すべき相手。怯えた瞳。
  剣を振りおろすことはできなかった。
  大剣を持った男がジャックの脇を駆け抜ける。それは隊長のハーボルトであった。 剣が一閃した。子供の身体が大きく弾き飛ばされる。それは城でも崩そうという一撃で、子供なら生きているわけはなかった。
「馬鹿。早く止めを刺せ」
  子供は立ち上がった。その体の半ばもう撃ち砕かれているのに。
  子供だけではない。多くのものたちは既に死んでいるだけの傷を受けながら立ち上がった。
  月の光を照らす中、彼らには影はない。影は光があるからこそ生まれる。影を持たぬ彼らはもう人間ではないのだ。闇に呑まれ生きるものの芝居を続けているだけの存在。
「止めを」
  ハーボルトの声をかき消すように、風が強く吹いた。雲が月隠し、光が翳った。
  子供の咽喉から声が漏れる。声ではなく何かが無理やり咽喉を押して出てくる空気の音。
  口の中からみえたのは金色の髪をした男の頭だ。次いで顔が現れる。すっと伸びた悪魔のような鼻ときれいな目、顔は小さく、顎が出ている。
「魔術師」
  ジャックは震えた。
  大陸の民の仇敵。この大陸から昼を奪った男。不意に現れ、光を奪った男。名乗りも上げなかった彼を人はただ魔術師の名で呼んだ。
  子供の身体を服でも脱ぐように外すと、魔術師が立っていた。
  既に影なき人々は悪い夢であったかのように消えていた。
  残っているのは騎士団のものだけであった。
「魔術師」
  仲間たちの声だ。
  それには様々な響きがあった。怒り、憎しみ、悲しみ。だが、何よりも強いのは恐れだった。
  ジャックは震える足を堪えながら剣を構えた。
「騎士隊の諸君、ご機嫌はいかがかな」
「貴様が出てきたのならば話が早い」
  ハーボルトが大剣を構え、魔術師に向かい切りかかった。
「ここで貴様を倒し、太陽を取り戻す」
  大剣が唸りを上げ、魔術師に向かい振り落とされる。
  魔術師の唇から空気が裂けるような音が響いた。
  ただ一つの呪文だった。魔術師の前に紫に輝く紋章が浮かび上がる。
  ハーボルトは倒れ、顔を包んでいる兜が転がっていく。蒼白な顔には一切の生気はない。
「それしか持たないとは騎士も腕が落ちたね」
  露になるハーボルトの顔を見てジャックには分かった。その心臓は脈打つのを止めているのだと。
  魔術師の前の紋章が消え去った。
「かかれ」
  騎士たちは一斉に切りかかった。
  怒涛のように迫る刃、呪文を唱える間はない。
  騎士たちは勝利を信じた。
  だが、刃は途中で巨人にでも掴まれたように動かなくなった。
「惜しかったね」
  魔術師の前に現れたのは紫に輝く死の紋章だった。
  激しく心臓が高鳴る音を立てる。自分が思ってもいないうちに心臓は止まり、眠ろうとしていた。
  ジャックも立っていることができずに倒れた。
  魔術師は倒れた騎士たちの合間を縫って楽しそうに声をかける。
「もう終わりかい」
  魔術師の声を聞きながらジャックは必死に顔を起こした。そこに見えたの魔術師の足だ。
  ジャックは立ち上がると剣を突き出した。
  魔術師は交わす事もしなかった。見えざる巨人の力がジャックの剣も他のものと同じように押し留める。
「惜しい」
  風が吹いた。雲間が少しだけ開き、月の光がジャックと魔術師を照らす。
  満月の光がさした瞬間、剣はなんの抵抗もなく魔術師の胸を貫いていった。
「これは慢心したね」
  ジャックは戦叫を上げながら踏み込んだ。全身の力を込めて。赤い血がジャックの身体を濡らす。魔術師の血に塗れた手がジャックの顔に触れる。踏み込んだせいで下がっている顔を無理やりあげた。
「その顔憶えておくよ」
  魔術師は笑い、そのまま物言わぬ体となった。
                    ◆
「その顔憶えておくよ」
  魔術師の声。その整った悪魔の顔。
「ジャック、ジャック」
  ジャック・アーヴィングは目を開けた。
  目の前にはブロッサムの顔があった。
  自分は今、部屋のベットの上にいる。
  そうだ。もうあの悪魔のような魔術師との戦いは終わったんだ。
  ジャック・アーヴィングはそう思いながらブロッサムの顔を見た。
  青い空のように澄んだ目は初めて会った時と変わらない。
  大陸から昼を奪い、死者の世界を作ろうとしていた魔術師に、偶然最後の一撃を与えたために英雄と呼ばれるようになったジャック。しかしその重圧に、大陸から離れたこの小さな島に移り住んでいた。そこで出会ったブロッサムと恋に落ち、ジャックは英雄と呼ばれる生活も、騎士の栄誉も忘れた。
「最近よく魘されてる」
「すまない」
  ブロッサムは首を横に振った。
「だいじょうぶ」
  子供をあやすようにブロッサムはジャックの頭を抱きしめた。
「眠るまで・・・あ、違った。朝まで一緒にいるから」
「でも君が疲れてしまう」
「だいじょうぶ」
  ジャックは目を閉じた。
  小夜啼鳥のあまい声がした。
  ジャックは眠った。悪い夢は見なかった。夢は。
                      ◆
  ジャックは目を開けた。
  外は暗いままだ。もう一度寝ようと思ったところでジャックは気付いた。小夜啼鳥の声が聞こえない。外を見たジャックの目には闇が見えた。
「朝?」
  横に寝ていたブロッサムが目を開ける。
「まさか」
  ジャックは寝台の下にしまってあった剣を持つと外に飛び出した。
  そこには闇に覆われた世界があった。
  昨日と変わらぬ白い砂浜。風に舞う椰子。そして昨日までは元気だった島の人々は生きているものの姿をしながら、既に死者となっている。
「待っていたよジャック・アーヴィング」
  楽しげな声の先には魔術師が立っていた。
「魔術師」
  首にはジャックがつけた傷が生々しく残っていた。
「せっかく大陸から昼を奪ったのに、英雄の君が出てこないと思ったらこんなところにいたとは。いやはや失敗だった。最も今回は大陸だけで終わらす気は無いから、君にはいずれ会えると思っていたから慌てはしなかったがね」
  ジャックは剣を構えた。
「懐かしいよその剣。冷ややかな刃の感触をまだ覚えている」
  魔術師は楽しげに首の切り口に触れた。ジャックは切りかかった。
  魔術師は交わす。
「腕は落ちたようだね」
「うるさい」
  それはジャック自身が一番よく分かっていた。この南の島に来てからの生活で、武器を使うための肉体はもう崩れていた。
「つまらないな」
  剣は魔術師の前で止まっていた。剣は魔術師の力に耐え切れなくなり砕け散った。その余波を受け、ジャックは地面に叩きつけられた。刃の欠片に切り刻まれた全身が朱に染まる。
「さよならだ」
  魔術師の前に死の紋章が現れる。体から命を維持していた何かが流れ失われていく。意識が遠くなる。
  心臓の鼓動が遅くなり眠ろうとする。
「ジャック!」
  ブロッサムの声だった。目が覚めた。
「きちゃだめだ」
  魔術師はブロッサムに気付き笑みを浮かべた。
  ジャックは自分が失敗した事を悟った。今声を上げなければ、必死に彼女を止めようとしなければ、いや、自分がここに来さえしなければ。
  ジャックの身体を放り出し、魔術師はブロッサムに近づいていく。
「逃げろブロッサム」

後編 少女の空
  闇の中、その街はあった。
  世界一の大都市。地上の神の都。かつてこの街はそう呼ばれていた。今もまた大路には人は溢れ、享楽の時は続いているように思われた。
  だが、それは事実だろうか。彼らには影はない。この都市に住む大群衆は全て死者なのだ。
  生あるものはただ一人。その一人ジャック・アーヴィングはその人々の中に交じり、都の中枢にある王宮へと入っていた。
  いつもなら決して余人の入れぬ王宮。しかし今夜は特別だった。
  魔術師が王の座につくのだ。その戴冠式が華々しく行われる王宮。今夜は人々に開放されていた。
  盛大な社交界。絵空事のように華やかな男女たち。しかしジャックの目に映るのは真実の姿。死の舞踊だけだ。
  骨だけになった体で生という夢に、いいや生きることも忘れ去り、そこにある彼らの姿。
  嫌悪を感じるがそれ以上にジャックの中には既に慣れ親しんだものだ。
  ここに来るまでにいったい幾人の死者と見えたか。彼らは死んでいるという事も知らずに生を夢見ていた。もう興味を引くものなどないはずだった。
  だが。
  ジャックは足を止めた。死の舞踊に魅入られたのではない。
「ブロッサム」
  ジャックは南の島を思い出した。あの死の砂浜を。
                     ◇
  南の島に広がる白い砂浜。
  その中の黒い一点。それは魔術師だ。魔術師は南の島の娘ブロッサムに近づいていく。
「お嬢さん」
  ブロッサムは震えていた。何かあればその均衡は解け、ブロッサムは逃げ出すはずだ。
  ジャックはそれを待っていた。死ぬのは怖くはない。むしろこの恐怖から逃れられるのなら。そう思えた。
  だが、ブロッサムは別だ。彼女は自分と関わってしまった事を除けばただの村の娘だ。こんな恐怖を味わっていい人間ではない。
「逃げたいのなら構いませんよ。ただし英雄ジャックの墓石はこの美しい浜辺に置かれる事になるでしょうが」
「逃げろ、逃げてくれ」
  ジャックは叫んだ。
「だいじょうぶ」
  ブロッサムの声がジャックの耳に届く。いつもと同じ言葉。今それは違うものだ。
「ブロッサム、いいから逃げろ」
  ジャックの声は叫びに変わった。
  闇がブロッサムを包み込みその姿を消し去る。
「ジャック・アーヴィング。無力を誰よりもよく知りながら永く眠りなさい。不相応にも英雄などど呼ばれた罰としてね」
  魔術師は消え、ブロッサムも消えていった。
  そしてジャックの意識も。
                      ◇
「そんなわけはない」
  ジャックは呟いた。
  あの時、彼女は闇に食われた。生きているわけはないのだ。
「王の戴冠が大広間で始まるぞ」
  声がかかり人々は大河と化し、大広間に集まっていく。
  大広間の中央には有翼の三脚台が用意されていた。かつては至高神の司祭であったろう老人が祈祷書を手に待っていた。
  人々のどよめきが止まる。
  現れたのは魔術師だ。今までの黒一色の衣と違いとは違い白と金で飾られた装束は神の戯画のようだ。
  司祭に向かい恭しく魔術師は頭を下げた。司祭も一礼し、祈祷書を広げ、宣誓の言葉を唱える。
「汝は神の地上での代理人として、王権を預かり、それにより王となるに異はないか」
「あります」
  魔術師の声に答えたように祈祷書は燃え上がった。祈祷書から火が燃え広がり焼かれながら叫びを上げる司祭。しかし群集は騒がずにただ魔術師を見ている。
「聞け、人々よ。この今より王となりこの大陸を治める。大陸だけではない。いずれこの世界全てが臣下となる。異議あるものは今この場で名乗るがいい」
  群集が割れた。そして悲鳴。その源はジャック・アーヴィングだった。
  魔術師は笑みを浮かべた。
「これはこれはわざわざ君が祝辞をいいに来てくれるとは光栄だよ。せいぜい歓待を受けてくれたまえ」
  一部の人間の姿が崩れ膨れ上がり、キマイラやヒドラといった化け物に転じると、ジャックに襲い掛かった。
  ジャックは背中の剣を抜いた。
  ヒドラの無数の首が切り裂かれる。だが、そこからは首が再生し、より勢いと数を増した。キマイラはその龍の口から炎を巻きながら背中を向けたジャックに飛び込む。
  ジャックは上に飛んでキマイラの攻撃を交わした。走りながら大広間中を走りまわる。燭台の灯りが消え、外からの星月の輝きが広間を照らし出した。
  キマイラの炎がヒドラを焼き尽くす。キマイラもまたヒドラの毒に冒され、そのまま動かなくなる。
  多くの群集がいながら静まり返った大広間で、魔術師の拍手の音だけが響く。
「随分と腕を上げたね」
「お前は仇だ」
「あれがなければ君はここまで強くならなかった。むしろ感謝して欲しいくらいだよ」
  ジャックは戦叫を上げながら魔術師に切りかかった。剣の刃に無数のルーンが浮かび上がり光を放つ。
「全く学ばないね」
  魔術師は交わそうとしなかった。
  だが、剣は魔術師の肩を切り裂いていた。魔術師は小さくうめきながら下がる。
「俺は求めつづけた。強さとお前を殺せる何かを。答えはすぐそこにあったのにな」
「それは何かね?」
「光だよ。月の光も、日の光を照り返したもの」
  ジャックは上を見た。
  魔術師は笑った。
「その為に燭台は豊富に用意したつもりだったがやられたよ。騒ぎに乗じて全て壊すとは」
  ジャックは魔術師に切りかかった。魔術師の肩から血が噴出す。
「それは『闇払う陽の標』か。まさか滅びた太陽神の神剣を持ち出すとは。だが、まだだ」
  魔術師の前に死の紋章が浮かび上がった。
「言わなかったか。強さとお前を殺せる何かを求めたと」
  ジャックは目を閉じていた。目撃したものでなければ紋章の魔術は効果がない。
  ジャックは目を閉じたまま魔術師に向かっていく。無言のままジャックは剣を振り上げた。
「ジャック」
  剣はとまっていた。その柔らかな声は忘れる事の無いブロッサム。
  ジャックは息を飲んだ。ブロッサムの匂いがした。覚えのある癖のある髪が腕にかかる。
  ジャックは目を開いた。そこにはブロッサムの姿があった。だが、瞳には夜空のように暗い藍色だ。肌の色も褐色が消え。ただ白いものになっている。ブロッサムも広間の群集と同じく生者を装う死人なのだ。 それでも目を離す事ができなかった。
「ばかめ」
  死の紋章がジャックの視界に入る。ジャックは全身から流れ出す力に耐え切れずに倒れた。
  衝撃が響いた。右腕が剣ごと吹き飛ばされた。
  叫びをあげるジャックに魔術は優しい声でいった。
「お前の愛する女に安息を与えられるがいい」
  ブロッサムは剣を掴むと、ジャックに近づいていく。剣が地面に擦れ、パンジーの鳴き声めいたものを響かせた。
  ジャックはブロッサムを見ていた。
  もう力は残ってはいない。
  生きていたわけではない。それでもこうして彼女をもう一度見れた事が幸せだった。ジャックはただブロッサムを見ていようと思った。
「ごめんなブロッサム。俺と会ったばかりにこんな事に」
  ジャックは泣いていた。今心の中にあるのは後悔ばかりだ。
  どうして戦士になったのか、どうして魔術師になったのか、どうしてあの島に逃げたのか。その一つでも選ばなければブロッサムはこうしてここにいなかっのに。
「ごめんな」
  ジャックは命を差し出すように胸を突き出した。
「ジャック」
  呟きが漏れる。ブロッサムの瞳には青空が感じられた。初めて出逢った時のままに。
「ばかな」
  ジャックはブロッサムに支えられた。死者である冷たい肌。だが、それでも懐かしい。立ち上がった二人の手に支えられ、剣は高々と上げられている。
  剣が振り下ろされた。魔術師は剣の放つ巨大な光の柱に包まれながら倒れた。回りの人々がその輪郭を失い影となり闇に消えていく。
「私が死ねばお前もあの永遠の暗闇に戻るというのに」
  魔術師の姿が塵となり消え去ると大広間には二人だった。
  二人は立っていることができずに倒れた。
  日の光が大広間に差し込みはじめる。
「ブロッサム」
  ブロッサムの体も消えていく。ゆっくりと灰に変わりながら。ブロッサムはジャックを見た。それはどこか戸惑っているように見えた。
「悪い夢を見たの。魔術師が来てわたしはきえてしまって・・・今も夢なのかな」
  それはあの最後の日のようだ。その時、彼女は何をしてくれたか。
  ジャックはブロッサムを抱きしめた。生身ではなく。霧でも抱いているかのような希薄さ。それでもブロッサムはここにいた。
「俺が朝まで見ててやる。まだ、怖いか」
「だいじょうぶ」
  ブロッサムは目を閉じた。その身体は細かな光になっていく。光は消えずジャックの周りを彷徨った。
「だいじょうぶだよブロッサム。だから行くんだ」
  光は消えていく。その先には空が広がっている。ブロッサムの瞳と同じ青空が。
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2012年11月25日

冬の罠


即効小説トレーニング http://webken.info/live_writing/try.php さんで書いたものに+したもの最初のはこっち

http://webken.info/live_writing/novel.php?id=24390

「まあ入ってください」
 そう言われて僕は炬燵に入った。この寒い時期に炬燵は魅力的だ。ミカンに炬燵に猫。この三つが揃っている空間は、天国であり、誘惑に抗するのは難しい。
 もう勝てるわけはない。
 僕は炬燵に入った。
 入ってから、あれ、今言ったのは誰なんだろうと思った。第一僕の周りには誰もいないんだから。そもそも僕はどうして炬燵に入っているんだ。
 酒を飲んで気持ちよく電車にのって、帰宅するところだったよな。
 炬燵には沢山の魅力がある。かつて多くの物書きが炬燵に関しての作品を残している。
 『風流諸国炬燵話』
 『炬燵: 行火とその周辺』
 『炬燵学習』などだ。
 彼らにとって炬燵の経験というのは、恋愛の話と同じくらい、人心に親しいものだったのだろう。
 とか考えていたが、もう炬燵の事で頭がいっぱいでどうでもよくなってくる。

 ちんちんと遠くの方で音がした。

 ああ、何の音だろうと思う。

 ちんちんと音がした。

 何か人の声も混じっていた気がする。

 ちんちんと音がした。

 側でする。何かを嚼んでいる音がした。 

 ちんちんと音がした。

 今度は自分の真下で。
 我に返った。足下にに引きずり下ろされた。
 落ちていきながら、団欒とした夕日のような灯りが見える。それは暖かい炬燵の本体。それは一つではなかった。
 数多の炬燵が、雑多に置かれている。
 炬燵には気をつけなくてはいけない。
 そうここは冬の恐ろしい罠。
 異界へと通じる炬燵の穴。
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2012年11月18日

あなたへの手紙

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http://webken.info/live_writing/novel.php?id=19550



 君に恋人ができたと聞いた時は、嬉しく思いました。君は、我が娘ながらというか、というか、とても物語を愛する娘でしたね。
 子供の頃は桃太郎の嫁になりたがりましたし、次に仮面ライダーのヒロインに。もう少し大きくなってからはマンガやアニメを見ては、「××は俺の嫁」と繰り返して、重婚を繰り返していましたね。
 そんな君が、『私の彼氏は凄いんだよ。なんでもしってるの』
 そういった時は少しばかり心配になりました。高校生の時というのは、私からみると、まだ若さを残している大学生くらいの年の男子でも、大人に見えて、万能ぶ感じますからね。
 彼氏の写真なり姿が見たいというと、君は喜んでスマホの画面を見せてくれましたね。
 あれゲームじゃ無いか。
 そう、それは自分の理想のアバターを作り出し、会話を楽しむゲームでした。
 正直、笑ってしまった私を君は怒りましたが、あれは苦笑ではなく、安堵の笑みだったのです。君はまだ変わっていないと。
 
 それから数ヶ月後、君は生身の彼氏を連れてきましたね。彼は温和そうな青年で、頭も良く、君の事も熟知していて、正直安堵しました。彼なら大丈夫だろうと。
 君の友人や、私の周りの若い娘たちも同じ時期に理想の彼氏ができて、ああ、世間は春なのだと思いました。
 ただ、君が妊娠したと聞くとそうはいってられなくなりました。
 彼を探し出して話しを始めると、全く問題ないと彼は言います。お金の心配もないし、元気な子を生んで欲しいと。
 まるで他人事のような彼に怒りをおぼえたままでいると、彼は言いました。会社で巻き込まれている横領事件について。私は脅迫に屈しました。

 彼が用意した産婦人科は野戦病院であるかのようにの騒がしく、多くの妊婦がいました。
 新生児室を通りかかった私は愕然としました。そこにいる赤子たちは天使のように美しかった。しかし、子供のような生まれたてはみな猿の子のようなものです。しかし、その場にいた子たちの顔は。
 君の子供は生まれました。天使のように整って、しかし人間で無いそれ。
 私は彼を探しました。彼と思った男は別人で、建物の中の男達も、彼に似ている、いや殆ど同じような容姿である事に気づいたのです。
 彼が立っていました。
「君たちは何なんだ?」
 彼の温和そうな顔は変わりませんでしたが、化け物のように思えました。
「君たち」
 彼はそれで何もかも分かったように頷きました。そうして私の方に向かってきました。殺されると思いましたが、彼はそのまま脇を抜け、どこかに消えていきました。
 病院から全ての新生児は消えました。

 君は家に戻ってきても寝台から起き上がらず、窓から外の景色を見るだけの存在に。そんな君が今日は嬉しそうに微笑んでいます。
 そして今、空一面に浮かび無数の円盤。君は外に飛び出していき、戻ってきませんでしたね。

 私は筆を置いた。
「お父さん」
 娘の声。いや、それは娘では無く君に似た誰かの声。新しい『彼』の眷属。
「見てみてこれ。アスミンは俺の嫁なんだよ」
 まがいものの君。しかし、幸せだった頃の君を思い出すこの煉獄。
posted by 作者 at 01:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年11月15日

終止符の前に

即効小説トレーニング http://webken.info/live_writing/try.php さんで書いたものに+したもの最初のはこっちhttp://www.movatwi.jp/url/redirect?http://webken.info/live_writing/novel.php?id=13195

 試験でカンニングをすることにした。
 今回の試験はうまくいかなければ留年なのだ。そこで私は考えた結果だ。しかし、普通の手ではうまくいかない。
 そして『一見何かの掲示のように見せかけて、実は英語の答えなのです』作戦がスタートした。 よく教室の前や後ろの壁に貼ってあるプリント。あれをそのままカンニングペーパーにするというプラン。
 これは何代か前の先輩がしたという話を聞いた事があるらしい。ところが、試験の会場は、普通の教室ではなかった。理科室だという。あの色あせた元素表とか貼ってある壁に、新しい掲示のペーパーなんて貼ったらもうだめ。一発でばれる。
 理科室の中を回る。科学部が研究結果を貼ってあるそこに貼るというものだ。 幸い、私も科学部なので、貼る事はできる。しかし、学園祭の時に作られる学校内の産物で作るアイスクリーム実験を除けば、模範的な幽霊部員である私には、展示するような研究結果は何もない。
 あーでもない、こーでもないとわめいていると、部長が尋ねてきた。
「珍しいですね。あなたがこうしているなんて」
「はは。その」
 ああ、これは使える(邪笑)
「部長、私間違ってました。みんなの研究発表を見て私も何かしてみたいです」
 そのまま部長と話しながら、色々と資料を作りだした。勿論、そこには英語も単語や、構文を、きっちり書き込んである。こっそりと分からぬように色々と。
 完璧に仕上げて貼り出して置いた。
 さて試験本番。
 理科室に入ろうとすると先輩が出てきた。手には丸めた模造紙が握られている。
「がんばってね」
「任せてください」
 確認すべく壁を見ると日本人らしい少女と外国人らしい青年の姿。英語のクミとマイク、教科書でシチュエーションの説明をする二人の絵がでかでかとかかれている。 もっとも、その内容はきっちりと、粘菌に関しての話だ。
 あれ。私あんなの書いてないよ
 これもしかしてばれてますか・・・
 先生はこっちを見ている。ぬお、怪しまれている。
 私じゃない。私じゃないよ。
 そう目で訴えながら問題用紙に向かった。とにかく全てを埋めきった。
 試験が終わり、先生と入れ替わりに部長がにこにこしながら入ってくる。
「お疲れ様」
「先輩、酷いですよ。結果を変えるなんて」
「しってたんですか? そのカン・・・」
 先輩の柔らかな手が口をふさぐ。
「掲示物に偽造するのを始めたのは私だからね。それにできたでしょ」
 うなずいた。確かにできていた
「昨日資料作りながら色々と教えてたの気づかなかった? 先生ね、何年も同じ問題なのよ」
「本当ですか」
「科学の基本は観察なの。まあ幽霊部員のあなたには分からないかもしれないけど」
 観察。
 観て察する。
「ところで、実は来年、先輩方が抜けるとね、我が科学部の人数は規定に達しないどころか、存亡の危機なの」
「分かりました。今後はちゃんと部活にも参加しますので、問題の方よろしくお願いします」
 私は初めて、科学部員として先輩を観察した所見を述べた。
posted by 作者 at 01:10 | Comment(0) | TrackBack(0) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年11月13日

則天去私

即効小説トレーニング http://webken.info/live_writing/try.php さんで書いたものに+したもの。
最初のバージョンはこっち  重さは1,425グラム http://webken.info/live_writing/novel.php?id=8855 
書いたのを
なおしたもの。

 先生が亡くなった。翌日には帝国大学医学部解剖室で腑分けされたと聞いて、ぞっとしたがそれだけではなかった。その脳と胃が取り出されて、ホルマリン漬けになって置かれているという話も何でも薄暗いじめじめした所のように思えて気持ち悪い。
 その後、先生の脳の重さを聞いて嘆息した。1,425グラムであったという。普通の人間よりも重いそうだ。あの素晴らしい世界を作り出したのだ。やはり脳の大きさというのはその発想に関わるのだろうか? 
 そう考えると、海豚や鯨、象といった巨大な生き物の脳もまた、先生が残されたような素晴らしい物語を紡ぎ出せるのだろうか。そう考えると我が輩の小さな脳では、何もなしえないと思われる。
 不謹慎だとも思えたが、そう気にし始めると、どうしてもそちらに考えがいってしまうのが、思考というものの不思議だ。 しかし、そうでも考えてなければやってなれなかったのだ。もう先生の大きな手で頭を撫でられる事も、こっそりと舶来のジャムを供に楽しむ事も無い事に。
 
 初七日も過ぎ、先生の気配ももう薄れた気がして、我が輩は縁側でぐったりと横になっていた。天気のよい昼は椽側で寝るのこそ最高であったのに、日溜まりも力を与えてはくれないようだ。
 そんな我が輩の耳に届いたのは悲報だった。帝国大学で標本になっていた脳が持ち出されたという。 その消息は不明であると。
 我が輩は家を飛び出した。先生の脳を探さなくてはいけない。その一念であったのは、もう荼毘にふされ、この世に残る先生の名残のように思えたからだ。
 帝都は広い。まして、証拠らしいものもない。だが、とりつかれたように我が輩は帝都をしらみつぶしにあたった。白い手も黒く汚し、手段を選ばなかった。そんな中でいくつかの話が浮かんできた。
 先生の脳を持ち出したのは植民地風の格好をした異国の女であった。その女の足取りを追う内に、脳は硝子瓶から、金属の筒に移されたようだった。

 女を見つけ出したの奇しくも四十九日目であった。
 池袋には不似合いな洋風な屋敷の中に女はいた。床には何らかの数式を思わせる図形が描かれており、その中央には先生の脳の入った奇妙な紋様の描かれた金属の筒が置かれていた。女は何やら、お経とも和讃ともつかぬ何かを呟いていた。
 金属の筒は、脳の重さを加味すると自分にはもてない重さだろう。しかし、何とかしなくてはならない。
 屋敷の中は奇妙な空気に包まれる。
 この寒さは何なのだ。 如月とはいえ、異様な寒さだった。それは上から感じられた。実際の上ではない上方。上を見ると、星が月が潰されそうな天の重圧。
 
 世界は暗転した。
 気づくと、その上今いままでの所とは違って無暗むやみに明るい。その明るいのが氷によって反射する光のせいであった。毛皮をまとっていても意味がないような寒さ。なんという氷寒地獄。 先程の寒さなど全く問題ではない。必死に動こうとするが体は忽ちのうちに冷えて、氷に縫い付けられたように動けなく。
 何やら奇妙なものが近づいてくる。銀ピかの表面。大きな枡のような身体。手足と思われる機械仕掛けらしいものが見える。機械仕掛けの化け物だ。その化け物に抱き上げられた。もう逃げるだけの体力は無い。借りてきた猫のようだ。
 機械の手が首回りを撫でる。それは懐かしい撫で方。先生の撫で方。
 我が輩は目を開いて化け物を見つめた。化け物の胴には先生の脳の入っていた円筒が綺麗に納まっている。
「お前はどうしてここにきたのだい」
 声こそ違うが懐かしい先生のしゃべり方。
「先生ですか?」
 思わずいうと機械はうなずく。
「するとここはあの世ですか。それなら我が輩の言葉が通じるのも分かる気がします」
「確かにあの世かもしれん。冥界かな。ここはPLUTO。冥王星という太陽系のもっとも端にある星だ」
「冥界っていうには奇妙ですね。全く、閻魔さまも何も人っ子一人いやしない」
 先生の身体に触れているうちに身体に熱が戻ってくる。
「先生、娑婆に戻りましょう。こんな寒いところもう沢山だ」
「一竿風月 閑生計 人釣 白蘋紅蓼間」

 我が輩は気づけば屋敷に一匹残されていた。
 先生がよくいっていた「則天去私」というのはそういう意味だったのかと得心しながら、窓の向こうの空を眺めて冥王星とやらを探したがとんと見当がつかなかった。
「あなたも追いたい?」
 女が立っていた。
 いや、こいつは本当に女なのか? そもそも人なのかも分からない
 ただ、先生がこの先もこの宇宙のどこかで病んだ身体を思わず、過ごしているのなら、この女に礼の一つもするべきかもしれないと思ったが、出てくるのはにゃーという猫なで声だけだった。
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2012年11月11日

East Of Eden

即効小説トレーニング http://webken.info/live_writing/try.php さんで書いたものに+したもの。
最初のバージョンはこっち http://webken.info/live_writing/novel.php?id=4535

 時間が過ぎていくのが分かる。僕はどうしてもその先にいかないといけないのに。どうすればいいのだろうか。

 『EOfE』に出会ったのは。よくあるゲームのつもりだった。iPhoneのアプリをダウンロードし、始める。
 最初は借金を背負わされる。といっても実際の金でなくポイントだ。そのマイナスになっているポイントを様々な行為で減らしていく。
 例えば、様々な場所を巡り、タグ、地域によって置かれているマーカーを集めていく。そうしていくうちに仮想空間の方にも自分の世界ができてくる。
 そこはユーザーにより天国のような世界だ。自分で作る世界。それを好きなもので、満たしていくのが楽しい。
 そうして楽しんでいるうちに知りあいができてきた。
 暇をもてあました主婦、疲れ切ったおっさん、大麻が好きで海外にちょくちょくいっている地下アイドル、進学校に通う高校生。田舎から出たいと嘆く地方公務員。
 ちょっと名前だけ分かっているやつもいた。
 知り合いや、顔見知りはひっきりなしに、現れては消えていく。
 ちょうど大きなプロジェクトに関わったせいで僕は『EOfE』から離れた。
 日常もしっかりこなせばそんなに悪いものでは無い。トラブルに巻き込まれるのもイベントの一つだし、嫌な奴に頭を下げるのもスキルを習得し居ているのだと思えば悪くない。現実も一つのゲームみたいなものだ。そして自分の力ですら大きなものを動かしていくのも分かるのもいい。一部であり、同時に全体に似た、相似形だから。
 プロジェクトが終わり、久しぶりに『EOfE』を開いた。確認すると前までいた知りあいは殆どいなくなっていた。この手のモバゲーにととっては珍しいことじゃなない。システム的には、みんな似ているから、完全に辞めるのは難しくとも、あっさり新しいものに移っていく人間も多いから。
 開くと声をかけてきたのは地下アイドルのコだった。アイテムが欲しいという。少し意地悪く『え、これは貴重品だから』。そういうと、彼女がいってきたのは、いくらほしいか?という言葉だった。あまりに真剣だったので、彼女に譲った。アプリに奇妙な画面が現れた。そこは楽園だった。自分のでは無い、彼女がほしがっていた楽園。
 上方か、下方かは分からない。彼女はどこかの世界にシフトしたのだ。
 『EOfE』、East Of Eden、聖書に約束されたエデンの東にある楽園。
 自分が取り残されたのは本能的にわかった。 彼女は自分の作った世界にいったのだ。
 僕は・・・・
 エデンの向こうには、もういけない。東の地に僕はいない。
posted by 作者 at 19:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 掌編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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