2012年02月18日

断じて 大佐 ではない








 紙芝居層、貸本層に出現した「墓場」のちに「GGG」と称される「KT」が、戯書層、電視層へと広がり、様々な国家は一つの概念によってまとめられた。後に「妖怪はmizkiにより生まれた」といわしめた、一連の流れが、世界の隅々に浸透してから、数十年の歳月が流れ去っていた。
  世界を暫定統治する、かの不死鳥の元で、世界は繁栄を謳歌していた。しかし、そうした繁栄の影の中から、長い歴史の闇がちろちろと舌を出しているのを多くのものは知らなかった。


 グロー・Mが、鉄道の旅に出たのはちょっとした気まぐれだった。 時はa-m90年、世界を挙げての祝祭が行われようとしている年だった。
 深夜、伯林の大停車場。
 駅の中で、グロー・Mは目を引いた。大陸横断鉄道には多くのを乗客がいる中で、そう思わせるのは古めかしく思える帝国様の服装のせいだ。その視線に気づかない程、グローは興奮していた。
 様々な国をほぼ一直線に突きぬける鉄道は、光溢れる伯林を出発し、肥沃な野を抜け、かの南アルプスを越え、遙か極東の地に至る。
 言葉にすれば簡単だが、その距離を旅すると決めてから、グローは酔うような感覚を味わっていた。体がほてり、駆け出したいような衝動というのか。
 そのせいで、出発時間まで随分あるのに、こうして大停車場まできてしまったのだ。
 こんなのは自分らしくない。幼い頃から、生活の一部になっている教えが自制と共によみがえってくる。
 落ち着こうと息を深呼吸した時に自分に向けられている視線に気づいた。落ち着くどころか顔が熱くなるのが分かった。
 グローは早足に思われない程度の早さでその場を後にした。
 発着所から離れ、大停車場の中を歩く。店が並び、いつもなら人がたくさんいると思われたが、深夜という時刻のせいか、ひっそりと静まりかえっていた。
 一人になって落ち着いてみれば、確かに友人達から、旅の門出に送られたこの服は確かに悪目立ちする類いの者だ。
 等間隔に並んだ照明灯は長い道の中で、遠近感が狂いそうになっているのが見える。その認識の果てのように思える所から誰かが走ってくる。
 軽やかな足音はどこか楽しんでいるようにも思えるが、その早さがおかしいものであるのに気づいた。そう思った瞬間、衝撃があって、グローは倒れていた。
「ごめん、見えなかった」
 どこかぶっきらぼうな口調で少女は言った。グローは立ち上がり、少女の顔を見る。
「口がきけないのか?」
 グローは首を横に振った。
「いや、そんな事は無いよ」
「そうか。ぼんやりしてると瓶に詰められるぞ」
 そういうと少女は背を向けて走って行く。
 半ば呆然と見送っていたが、 停車場の時鐘が響くのが聞こえる。
「まずい」
 グローは駆け出した。

 鉄道は一等客席だった。個室になった客室は、曲線を多用した当世風な装飾が施されている。狭いながらも、寝台が二つ。小さいながらも備えつけの机。その上にはホーロー引きの水差しとコップが置かれている。寝台の下に荷物を押し込んで、腰を下ろした。
 長い旅になるという親の配慮が素直にありがたい。乗る前に見た他の客室は、祭礼の日の教会のように混み、とても耐えられないように思えた。何より一等客室の乗客を待つ優待がなければ、乗り遅れていた。
 グローは自分が最後の乗客だと思っていたが、そうではなく、まだ鉄道は出発しないようだ。
 窓から最後の客と思われる夫婦が来るのが見える。二人とも植民地風の軽快な服を身につけていた。紳士は初老の男で銀髪が目立つ。その背はまっすぐ伸びていて、どこか教会の牧師を思い起こさせた。婦人は顔を伏せがちにしていて、宝飾らしいものは首飾りのみだ。夫婦と思ったが親子でもおかしくない気がした。
 二人が鉄道に乗り込み、グローは目を離した。
 懐から冊子を取り出した。それは小さな冊子ではあるが、中は地図が描かれている。様々な怪物が描かれる地図は、古めかしいもので実用品というよりは装飾品に近い。これは同じ名を持った祖父が若かりし頃に使っていたものだという。この地図を幼少の頃に眺めていなければ旅に出ることは無かったろう。友人達がそれを知って同じ頃に祖父が着ていたであろう、帝国様の服装にしたことに思い至った。
 友人達の顔を思い浮かべながら、停車場の向こうに広がる伯林を思いだした。
「発車はまかりならん」
 そんな声が聞こえたような気がして、グローは目をこらした。
 堅い足音が聞こえてくる。停車場の奥の暗がりから走ってくる数人の黒ずくめ男。
 男達は軍服に身を包み、腰には銃のホルスターが見える。機敏な動きは、グローの見たことがないものだ。
 男達の鋭い目が向けられ、グローは息を飲んだ。
 発車のベルが鳴り、鉄道が動き始めた。
「大佐を逃すな」
 声は遠ざかる。
posted by 作者 at 23:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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