2014年04月16日

ブラッディブラッシュアイランド 1 そして館へ

「随分、盛大な出迎えだね」
 渋沢一二三はいった。
 休日だというの通っている学校悟徳学園の制服姿で、スクールガール的に風に装う事もせずきっちりと着ている。
 桟橋には十数人の漁民らしい男達が立っている。 こういう歓迎は一二三は嫌いではない。基本的に華やかなのは苦手ではないし、場合によっては嫌われる事もあるからだ。
「そうですね。宮本さんが何かいったのかな」
 答える中山五則の方も制服姿だ。
 学生の正装は学生服ということで、こういう時に一二三は学生服だ。
 一二三は、悟徳学園の理事のひとりで、学校の一角、アチックミューゼアムという名で、秘密の部屋、ヨーロッパの貴族の家にあるようなウンダーカンマーを作っていた。もっとも収蔵しているのは雑多で送られてきたものは全て収蔵するつもりでいた。
 この島、BWIに来たのは、ミューゼアムに入れたい品があるから見に来て欲しいと、友人の誘いからだった。
 知人の宮本つなから祖霊を祭った碑があり、うち捨てられいるから収蔵するつもりはないかとの事だった。
 写真を見たところ、黒い石で作られた碑は、龜甲獸骨文字らしいものが彫られ、なかなかの代物のように思えた。そこで、中山五則と共に訪れたのだ。
 祖霊を祭っているものがある島らしく、人々の動きは何かの儀式の最中なのか、独特のものだ。
「あれも宮本くんの仕業かな」
 桟橋についた。船と桟橋の間に板が渡り、何人かの客が上陸する。
 悲鳴が上がった。
「何ですか」
 五則がさっさと桟橋に向かうと、そこに人々が群がってくる。
「うわ」
「中山くん」
 一二三は人々のなかに割って入った。
「何だね君たちは」
 人々の目を見た瞬間、一二三は息を飲んだ。人々の目は奇妙な白目を見せている。
 祖霊というよりは死霊の類いだった。
「モウレンだ」
 声が上がった。
 モウレン。亡霊。そんなのがどうしてこうして昼日向動き回っている。
 一二三はそう思いながら、振り返ると、異変に気づいたらしく、船は離れていく。
「おい、待て」
 一二三の声を聞いても船は離れていった。
「うわ」
「中山くん」
 ゾンビの間に五則の姿が埋もれていく。覆うとしたとき、一二三にもゾンビが襲いかかる。

 島はゾンビが跋扈していた。ゾンビ、モウレン、死霊といったが実際は何か分からない。ゾンビの正体は何か?。どうして生まれたのかまるきり分からない。
 一緒にきた中山五則もその時に別れ別れになった。
 見たところ島はまだパニックという感じではなかった。状況を見ているとゾンビが動き出してからそうはたっていないようだ。
 まずは、先乗りしている宮本つなにあって話を聞きたいのだが、この島のどこにいるものか。そして港で別れ別れになった中山五則の事も気になる。
「外もんだな」
 一二三の前に十数人の集団が現れた。考え事をしていたせいで気づかなかったようだ。
 数は十人あまりゾンビではないようだ。日焼けした肌の感じから原住民と思えた。
 そう言われて一二三は頷いた。場合によっては直ぐに逃げられるように足に力を入れた。
「着いた矢先に騒ぎに巻き込まれてしまった。あなた方はこの島の原住民?」
「そうだ。原住民という言われ方は妙な気もするけど」
 若い男は笑った。よく日焼けした肌はいい色でカメラを持っていないのが悔やまれた。きっといい写真になったろう。
「旅行か?」
「昨日の朝きてね。ところで、宮本つなと中山五則という女を知らないかな。宮本の方がごついカメラを、中山の方が五円玉を持っている」
 男は少し考えて首を横に振った。
「カメラは分るが五円玉というのがわからんのだが」
「分らないならいいんだ。あえばよくわかるから」
「そうか。もしよかったら一緒に行くか? お前まだ子供だろ」
「まあ年齢的にわね。残念だが、部下を探したいので、危険な所にいくかもしれない。もうしわけないが、同行は断らせていただくよ」
 一二三の言葉に男は頷き、
「ではこれを持って行け」
 干した鱈だった。
「これは美味そうだね」
「うちの特産品だからな」
「ありがとう。何か礼をしたいんだが」
「困ったときはお互い様さ」
 男に向かい、一二三は頭を下げてから、歩き出した。
 

 渋沢一二三は声に出さずに心中でガッツポーズをとった。目の前には、まだ荒らされていないホームセンターがある。割合、大きな道から外れているから発見されされなかったのだろうか。
 油断しないように前後を見回しながら建物に向かう。表の扉は閉まっていたが、従業員用の通用口のドアはけり壊せた。中に入るとよどんだ空気が伝わってくる。
 何かつかえるものはないだろうか。ホームセンターは荒らされていたのではなく最初から、ものがないと判断されて見捨てられていただけのようで、つかえるものはない。しかし「あった」
 一二三は声をあげた。壊された段ボールの中にあるもの。それは寝袋だった。袋も破かれておらず真新しいそれは身体とフィットする歩ける寝袋と言われるものだ。
 そのまま探索を続けると色鮮やかな一角がある。花屋だ。花屋というのはおもしろい店で、地元にある花を商う事は殆ど無い。価値があるものはできるだけ遠い場所で育ったもの。流通のあり方が目に見えて分かる店と言える。
 オランダのチューリップのような、できた場所で愛される事もあるがその多くは例外だ。それにしてもこれは珍しすぎるというものだろう。
 壁にたれていたと思っていた蔦が動き始め、しなるようにしながら襲いかかってくる。
 ゾンビの正体が何となく一つ分かってきた気がした。これは悪霊とかそういう類いでなく、物理的なものだ。
「南方さんがいてくれればいいんだが」
 あの博覧強記の化け物なら、何か対処の一つでも思いついてくれそうだが、
「考えるより、実業が専門なのでね」
 一二三は唸る蔦の動きを冷静に見ていた。それは機械的で、こちらの動きに反応するだけだ。それなら。
「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ程度で良かった。ドリフィドなら全滅だ。機会があったら、収集するのもいいかもしれないが、今はさよならだ」
 昨日貰った干し魚の残りを蔦に向かいゆっくり猫でもじゃらすように揺り動かすと、蔦は一気に伸びる。そのまま手を離し、一二三は花屋から抜け出した。
「魚悪いコトしたな」
 しかし、このホームセンターつかえるかもしれない。あのリトル・ショップ・オブ・ホラーズが陣取っていれば、ゾンビも入ってこないように思われた。
「よし」
 寝袋を身につけて横になった。寝袋をつけたものの床は堅く、寝心地はよくない。
 これからどうするか。そう思っているうちに眠気が一二三を覆ってきた。今日はもう眠ろう。目を閉じて一二三は明日の事を思った。
 数日前までは、海亀の産卵の見物や、マグロ漁を見て盛り上がっていたのが嘘のようだ。来る前に、逗留していた保養館に持ち込まれた古文書を持ってこなくて良かった。江戸時代、もしかしたらさらに古いと思われるあの文書の類い。ここにあっては荷物になっただろう。
 ゾンビたちの足音を聞きながら一二三は息を潜めた。あいつらの察知するチカラがどれほどのものなのか、今なら割合はかれる気がした。屋根伝いに逃げてもいいし、今なら大丈夫な気がした。
 息を潜める。ゾンビは進入してくることなく、大きな音ががあがった。ドリフィドと、ゾンビで戦いは始まったようだが、音は直ぐにしなくなった。
 目を閉じて、大きく息を吐いた、そのまま意識を失うように目を閉じると、顔をあてる冷たい感触に目を覚ます。
 拳銃。古めかしいリボルバー。警察の拳銃であるニューナンブ60だ。
 目を覚ますと、そこには痩せた男が中腰になって、一二三に銃を突きつけている。
「お前も俺の食糧を奪いに来たのか?」
 男の殺意に身体が勝手に動いていた。男の手首に触れ、そのまま小手を決めて床に押しつける。
「食べ物は幸い豊富にあるんだ。悪いけど、ここで人間同士騒ぐのは小さい事だと思うよ」
「お前、腕に自信があるみたいだな」
「武士は食わねど高楊枝さ。ただの見栄でたいした腕前じゃない」
 動ける寝袋とはいえ闘うには無理がある。
「もう気はすんだかな」
「分った」
 男は頷いた。
「ところで君は、長いようだが、宮本つなと中山五則という女を知らないかな。宮本の方がごついカメラを、中山の方が五円玉を持っている」
「五円玉?」
「額にこう五円玉がついてるんだ。彼女の特技でね。とてもおもしろいものだ」
「そういうのなら館にいるかもしれない」
「館?」
posted by 作者 at 12:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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