2019年07月03日

二十二年と十六日


 消えたがる君を引き止めたかったから、
たくさんご馳走を用意した。
 これを見て君はどんな顔するだろうか。喜んでくれるだろうか。
 いや、喜びはしないだろう。
 初めて出会ったときは、事件の翌日だった。
 娘が死んだのが信じられずさ迷っていたとき、君と出会った。
 まったく娘と違うのに僕は娘だと思い君を家に連れて行った。
 そのまま君は娘として僕のところにいた。
 子供の頃からしていたように、野山を駆け、狩りをして過ごした。
 あれから何年も過ぎておかしいことに気づいた。
 最初の数年はただ成長が遅いだけだと思っていた。それが五年になり、十年になり、成長しない君。もう錯覚だとは思えなかった。
 僕たちは村を出た。
 人の変化の多い都市を選び、目立たないようにひっそり生きてきた。
 ひっそりと・・・
 それは嘘だ。君が生きるために人を襲うのに気づいていた。
 だから、村を出た。いや、村は出たのではない。村は、人がいなくなっていた。村を出たのは恐怖だ。君にいつ食べられるからもしれないという恐怖。
 僕は意気地なく、自分以外の人間を君の食卓に招いのだ。
「お父さん」
 記憶の中とかわらない声。部屋に入ってきた君。
 目を大きく開いて用意したごちそうに驚いている。
「大きなケーキ」
「君はこのオレンジの乗ったケーキが好きだった」
「今でも好きよ」
「覚えてるかな。七歳の誕生日に用意したケーキ」
「イチゴがなくて、オレンジでケーキを作ったら、そっちのほうが好きだったのよ」
「そうだ。あと、この腿肉の燻製」
「こんな立派なの村を出ていらいだわ」
「君には不便させたね」
「そんなことはないわお父さん」
「君とどれだけ一緒にいたろう。本物の娘といれたのは八年だ」
「二十二年と十六日」
「そんなにかい」
「だから、もういいの。わたしはもう消えようと思うの」
「でもね、君がいたから僕は生きてこれた」
 ゆっくりと息を吐く。
「事件のことを聞いたのは海の向こうだった。必死に帰り着いたら家には誰もいなかった」
 そして私の心は死んだ。そうしなければ生きていけなかった。
「『事件』の時、屋外にいたのだけは、わかった」
 見つかるわけもないのはわかっていたのに探し続けた。
「二人がピクニックに向かった湖に向かった。そこで何日もさ迷っていた。そして君にあった」
 窓ガラスが割れた。何かが投げ込まれたのがわかった。
 意識が薄れる。銃声が響く。
 君が小さな体で私をかばってくれたのがわかった。しかし、生温かいものが腹からこぼれるのが分かった。
「お父さん」
「君を、娘の姿を見たとき、私は、生き返ったんだ」
「死なないで」

 君は優しすぎた。いつの頃から、僕を学び、人間を知ってしまった。人間を襲わなくなった。そして消えたいと願い、餓死を選んだ。
「僕を食べろ」
「どうして」
「君に生きていてほしいからだ」
「そんな」
 もう真っ暗だ。先程まで温かった自分の血がぬるく、ねばついてきたのがわかる。
「待って」
 君の言葉が聞こえた。泣かないでくれ、僕は家族にところにいかないで、いつか君が来る地獄で待っている。
 さよなら僕のかわいい怪物。
「置いていかないで」


九十九屋さんた さんには「消えたがる君を引き止めたかった」で始まり、「置いていかないで」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば13ツイート(1820字)以内でお願いします。
posted by 作者 at 07:44 | Comment(0) | 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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